盛夏の大阪、気温は朝からぐんぐん上がり、午前中に30度を越える日も珍しくありません。その大阪の町なかで、江口寛さん・智子さん夫妻は、エアコンに頼らない暮らしをしています。
「それは暑いですよ。よほどの時は一台だけクーラーがある1階の和室に避難します」と智子さんは笑います。でも、我慢比べをしているわけではなさそうです。「暑い、暑い」と言いつつ、家族みんなが2階のリビングに集まってきます。夜は、寝室の高窓を開け放し、親子4人が同じ部屋で休みます。
エアコン頼りの家にしなかったのは、「子どもたちに、夏の暑さ、冬の寒さを皮膚感覚で教えたかったから」。江口家には、食洗機も電子レンジも、全自動洗濯機もありません。現代の生活はあらゆることが機械頼りで、便利なのがあたり前です。でも、この先ずっとこんなに恵まれた暮らしが続くとは限りません。その時になって動じないよう、生活の基本を身に付けさせたかったのだそうです。
もう一つ、江口さん夫妻が家を建てる際に望んだことがあります。それは、家の中の間仕切りをできるだけ少なくすること。「土地が狭いので、個室を設けると一つひとつの部屋が狭くなります。冷房を効かせた小さな部屋にこもらず、お互いの気配を感じて生活したかったんです」と、智子さん。全体が一つながりの家は、風もよく通ります。
涼しさと暖かさを運ぶ
空気の通り道
みんなが集まる2階リビングの窓を覆うのは涼しげな緑のカーテンです。南面の外壁には、1階から3階までつる性の植物を這わせるグリーンフェンスが取り付けられ、夏の日射を遮ります。窓を開け放しにしていても、中の様子が見えにくい仕掛けでもあります。緑がない冬場は、大きな開口部を通して、暖かな陽射しが部屋の奥まで届きます。
縁側のように内と外をつなぐ場所にしたかったという、広々とした1階の玄関ホールには磁器タイルを敷いています。夏はひんやりとした感触が素足に心地よく、冬はタイルとその下に打ったコンクリートが太陽の熱を蓄えます。ここで熱せられた空気は階段を通って上昇し、家全体をほんのりと暖めます。寒い日には、玄関ホールに置いた石油ストーブをつけます。それ一台で、1階から3階まで暖まるそうです。
江口邸には、家の中を縦に通る「空気の道」があります。広々とした階段室が、家全体の空気を効率よく循環させているのです。南面から入る暖かい風は空気の道を通って上昇し、北側の踊り場の窓から抜けます。空気の温度差によって風が通る仕組みです。
この階段室は、寛さんにとって宝島のような場所でもあります。大の本好きである寛さんが、これまでに集めた本は千冊を下らず。以前に暮らしていた公団では、南側の一番快適な部屋が本に占拠され、戸が開かなくなっていたそうです。今の家は、たたみ2.5畳分の踊り場をたっぷり取り、「図書室」にしました。天井まで届く本棚に詰まった本を眺め、クッションにもたれ、そよ風に吹かれながらの読書は寛さん至福の時間です。「気持ちよすぎて、寝てしまうことが多いですね(笑)」。
この家を建ててから、
自分達らしい暮らしが始まった
4年前、家を建てると決めていた夫妻は、どこに頼むか迷っていました。智子さんは化学物質に敏感な体質で、ハウスメーカーの家は最初から選択肢の外でした。屋根で集めた太陽の熱を家中に循環させる家も見学しましたが、機械装置を使うことに疑問を感じたそうです。
そうしているうちに、新聞にエコやバオバブの現場見学会の折り込みチラシが入りました。事務所を訪ね、社長の山田知平さんと話して納得したそうです。「無垢の木しか使わない、有害な化学物質は排除すると聞いて、お任せすることにしました」。エコやバオバブでは、家を建てる時に使う材料だけでなく、工事中の仮設資材も合板など化学物質が含まれたものを使わないようにしています。そんな姿勢に感銘を受けたそうです。
「バオバブさんとは、家のことだけではなく、環境、食、生活……、共感することが多いですね。今でも、出会った時と同じ気持ちでお付き合いしています」。
次男の達生君は、この家に住む前はアトピー体質だったのが、引越しをしてから良くなりました。「風通しが良くて、ハウスダストやカビの問題が解消されたからだと思います」と、寛さん。智子さんは、食品にも気を使い、化学物質を極力排除した食材を選ぶようにしています。「毎日忙しくて、ゆっくりお茶を飲む時間もないんですよ」と言いながら、菜園の手入れをし、健康を考えた料理をつくります。
江口さん一家は、便利であることよりも、健やかさを選びました。「この家を建ててから、今の暮らしが始まったように思います」と、智子さんは振り返ります。都会の真ん中で、家族は季節を肌で感じながら暮らしています。




