廣瀬家には、4人の“男の子”がいます。高校1年生から小学校3年生までの三兄弟と、3歳になる犬のクバ。クバは、体長1メートル80センチもあるバーニーズマウンテンドッグ。日本では珍しい犬種です。 一家が暮らすのは、都心に近い住宅街の、旗竿敷地に建つ家です。延べ床面積はロフトも入れて31.6坪。「狭いけれども、伸び伸び暮らしてます」と、正孝さん・久恵さん夫妻は口をそろえます。

クバは、普通の犬に比べたら、王子様待遇かもしれません。家の外だけでなく、勝手口を兼ねた3畳の土間にも、専用のスペースがあるのですから。クバの先祖は、冷涼なアルプスの山岳地帯で、遭難者の救助や荷物運びをしてきました。だから、日本の暑さが苦手です。土間は、冷房完備の避暑地なのです。冬は、戸外で過ごします。

この家ができたのは2007年12月。クバの散歩がしやすい大きな公園の近くで土地を探し、私道部分で放し飼いができる旗竿敷地を希望しました。家のプランも、犬との生活を考えて決めました。

「よだれや抜け毛がすごいし、暖房をつけると暑がるから、室内で一緒に暮らすことは無理。でも、近くにいたいんです。だから、リビングを1階にしました」と、久恵さん。玄関を入るとすぐにリビングなので、帰宅した家族が集まりやすい間取りにもなりました。

四方を隣家に囲まれた都心の旗竿敷地では、2階にリビングを配置することが珍しくありません。採光や通風を確保するためです。廣瀬家の場合は、大きな吹き抜けを設けることで高窓から光を採り込み、高低差を活かして風を通しています。

クバの部屋は、キッチンの脇にあります。久恵さんは、家事の合間に声をかけたり、なでてやったり。コンパクトな家の中で、人と犬が程よい距離を保って暮らしています。

小さな家だから、お互いさま。
気づかいのセンスが磨かれる

廣瀬夫妻は、田舎暮らしを考えたこともあったといいます。結局、選んだのは、家族が一緒にいられる時間が長い都会での生活でした。

限られた面積を有効に使うため、この家は、勉強部屋や収納を除けば、1階からロフトまで、仕切りのない一つの空間です。

「どこで誰が何をしているのか、すぐにわかるんです。主人と話していることも、子供たちに筒抜け。隠し事ができない家です」と、久恵さんは笑います。

兄弟げんかが始まったりすると大変です。「うっとうしいから、誰かがすぐに止めさせます。けんかしても、この家で一緒に暮らすしかないのですから、どうすればいいか、それぞれが考えるようになりました」と、正孝さんもうなずきます。

この家で暮らし始めた当初は、家の中のどこにいても音や灯りを感じて、慣れるまで苦労したといいます。だからこそ、「お互い様」の気持ちや、家族を思いやる配慮と作法が磨かれたのでしょう。

廣瀬家では、長男の竜靖さんも次男の蒼矢さんも、小学校高学年の頃に山村留学をして親元を離れました。その時に、精神的な親離れ・子離れができたと夫妻は言います。「それでも、もしかしたら」と続けます。

「思春期は難しい時期ですから、個室があったら、こもっていたかもしれません。この家は、居心地が悪いように、わざと狭い勉強部屋にしました(笑)」

勉強部屋は、竜靖さんと蒼矢さんがそれぞれ3畳ずつ。普段は、三兄弟の共有スペースであるロフトで遊んだり、居間のテーブルで勉強していることが多いそうです。「学校から帰ってくると、みんなテーブルに座って話していますね」

正孝さんが帰宅すると、玄関と居間を仕切る建具のガラスを通して、家族が談笑している様子がうかがえます。そんな時、「帰ってきた」という想いが強くなるそうです。

夜は、2階にいる子どもたちの気配を感じ、高窓から見える空を渡って行く月を見ながら、夫婦で語らう静かな時間が流れていきます。

久恵さんは、この家の居心地良さを、こう言い表します。「居心地のいい特別な場所があるというよりは、家全体がひとつの空間として、充実した時間をつくり出しているように感じています」。

家は完成した時が終わりでないと、
住んでから実感

この家を建てた工務店は、エコロジーライフ花です。引渡しの時、社長の直井徹男さんは夫妻に向かって、「これで終わりじゃないですからね」と、言いました。

久恵さんは、「これから何があるんだろう」と、首をかしげたそうです。

「住んでみると、『やっぱり、こうしたい』と思うところが出てくるものなんですね。困ったことを解消してくれて、ありがたいです」

引っ越してから1年半の間に、いくつかの変更がありました。2階に間仕切りをつくり、高校受験を控えた蒼矢さんのために勉強部屋を増やしたことが、そのひとつ。吹き抜けと2階の部屋の境は、最初は障子を入れただけでした。それでは下階の灯りがまぶしいと、遮光用の暖簾の軸受けを取り付けてもらいました。

これからも、兄弟の成長とともに、この家は変わっていくのでしょう。三男の灯遥君は、5年生になったら北海道に山村留学する決心を固めています。

「暮らしは、無理して家に合わせなくてもいいんですね」と、久恵さん。家は暮らしをやさしく包む器であることを実感しています。

/家族の一員であるクバを囲む、廣瀬さん夫妻と三男の灯遥君。 右下/やさしくて人なつこいクバは、ご近所の人気者。表情でご機嫌がわかるそう。 /玄関の引き戸は無垢のクリ材を使い、建具職人が手づくりした
/2階の和室で三線を弾く正孝さんと蒼矢さん。普段は板の間との境の障子を開け放し、広々と多目的に使っている。 右中/蒼矢さんは山村留学した徳之島で三線を習った。楽器もお手製。 /和室とロフトがつながり、右の吹き抜けから1階を見下ろせる。 右下/この家にコンピューターゲームはない。ロフトは、三兄弟が思い思いに過ごす場所
/2階から吹き抜けを見下ろす。2階の天井まである大きな開口部で採光を確保している。隣家に面したすべての窓の前には植物を植え、視線をコントロールしている。 /吹き抜けに面した小窓は、右に見える通風用の窓を開閉するためのもの
/家族が集まるリビング。宿題をしたり、本を読んだり、思い思いに過ごす。「休日は、ずっと息子たちとしゃべっています」と、正孝さん。 /クバの部屋はキッチン脇の広い勝手口。ここに洗濯機も置いている。キッチンに立つ久恵さんとクバは、いつもこんな風にアイコンタクトを交わしている。時々おこぼれももらっているとのこと。
DATA
家族 夫、妻、長男、次男、三男、犬
所在地 東京都三鷹市
敷地面積 123.96㎡
延床面積 104.53㎡(1階48.34㎡、2階41.73㎡、ロフト14.46㎡)
竣工年月 2007年12月

構造材
 土台/国産無垢桧(岐阜県)
 柱/国産無垢杉(宮城県栗原市)
 梁/国産無垢杉(宮城県栗原市)
 大黒柱/国産無垢栗(宮城県栗原市)
 恵比寿柱/国産無垢ミズメザクラ(宮城県栗原市)

断熱材 屋根・壁・床/羊毛断熱材ウールブレス

主な外部仕上げ
 屋根/ガルバリウム鋼板
 外壁/石灰モルタル掻き落とし

主な内装仕上げ
 1階床/国産無垢栗
 2階床/国産無垢唐松
 R階床/国産無垢杉
 壁/オガファーザー張り
 建具/国産無垢杉(宮城県栗原市)
 階段/国産無垢赤松(宮城県栗原市)
(撮影:鈴木真貴)