Vol.5

古民家ライフ②“大和魂”を受け継ぐ、山形の腕。

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さて、では前回にひきつづき、いよいよ高木さんのご自宅拝見とまいりましょう。
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玄関先で迎えてくれたのは、飴色に磨き上げられた、なんとも味のある古い下駄箱。

これ、いいでしょ。古民家を解体したときに見つけたんです。真っ黒に汚れていたんですが、これはいいものだぞ!と思って運び出し、きれいにして使っています。運び出すのも汚れを落とすのも大変でしたが、持って来てよかったと思っています。


誰も住まなくなった古民家に埋もれていたこの棚が高木さんと出合い救い出されたシーンを思い浮かべると、何だか自分が棚になったかのように嬉しい 気持ちになりました。

本物を見出す眼力と復元力を持つ人が増えれば、捨てられてしまう古いモノたちの中にも、こうして再び輝けるモノがたくさんあるのかもしれませんね。
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玄関と住居スペースを仕切っているのは、向こうの様子がほどよく見える引き戸。木とガラスの組み合わせで、すっきりとしたデザインです。

今昔 古民家ライフ 高木邸居間
居間も、玄関先同様、無垢のスギ材の床。室内の空気がすっきりやわらかなのは、ふんだんに使われた木々が呼吸しているからでしょうか…。初めてお邪魔したお宅なのに、仕事を忘れて床にゴロンと寝転びたくなるような心地よさです。

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伺ったのは11月でしたが、お子さんたちはハダシ。でも、床も部屋も暖かで、床の木肌は見るからに素足に気持ち良さそうです。

床 は特にスギがオススメで、この床はスギ材です。スギは柔らかく、発泡スチロールのように空気をたくさん含んでいて、保温効果があるんですね。ウチに遊びに 来た友人やお客さんたちは、「床暖房が入ってるの?」と言って驚くんですよ。もちろん床暖房じゃありませんけどね(笑)。

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暖房はもちろん、建材の切れ端や間伐材を燃料にした薪ストーブ。

高 木さんの家づくりで使う木材は化学的な薬剤に漬け込んだりしていない安全な無垢材だから、端材を薪にして燃やしても安心。建材として使われている無垢な木 肌の温もりを目・鼻・皮膚から感じることに加え、薪ストーブからジンワリ出ている遠赤外線も、この空間に満ちるやわらかな空気に一役買っているはずです。

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大きな窓から明るい太陽の光が差し込んでいた昼間とは打って変わった、夜の居間。

梁や天井の木肌と、白い漆喰の壁のコントラストがお月様色の灯りに照らされ、何ともゆったり、落ち着いた雰囲気ですね。

天井も無垢の杉板です。宮城県の栗駒の森で採れた木でフローリング材になるはずのものでしたが、節・割れ・厚さが足りないなどの理由で製品として出せないものを買い、自分で製材して造りました。梁は、杉ばかりではつまらないと思い、松にしてみました。


なるほど〜。それにしても、これを自ら設計し、基本的にお一人で建てたなんて、プロとはいえすごい!木の香りにうっとりしつつ、思わず感嘆のタメ息がもれてしまいます。
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障子は、光と熱をほどよく取り込むことができて断熱効果も高い、日本の知恵と文化の粋が詰まったスグレモノ。外が暑い日も寒い日も、室内の温度、湿度、明るさを、ほどよく調節してくれます。

この障子は、建具屋さんをしている高木さんの伯父さまからの新築祝いとのこと。実用新案をとっているという「木片をはめて模様ができる格子」は、自由自在に模様がつくれる、便利で楽しいアイデアです。

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こちらは、居間のとなりにつづく和室の障子。右手にチラリと押入れのふすまが見えますが、押入れの中の壁や板も合板は一切使わず、無垢の木の板を張ってあるとのこと。

奥さまいはく、

以前住んでいた借家は結露がストレスでしたが、この家はまったく結露がなく快適です。


「結 露がないのは呼吸する無垢材の調湿効果のおかげ」と高木さん。化学的な接着剤で張り合わせた合板やビニールクロスを多用した「呼吸しない家」はもちろん、 「木の家」と謳っていても、たいていは押入れなどの隠れた部分に合板が使われているため、通気が遮断されて湿気がたまり、結露してしまうことが多いので す。

障子やふすまの和紙、見えない部分まで使われた無垢材、漆喰壁の土…。自然素材でできた呼吸する家なら、結露やカビに悩む心配もなさそうですね。

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大黒柱も杉の木。唐辛子と稲穂でできたこの飾りは、奥さまのお母さんお手製の、魔よけのお守りだそうです。

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これは、構造材の様子がよくわかる、建築中の写真。

画面下に斜めに渡っている2本の柱が階段のスロープ部分で、ここはこの家を建てた頃の高木さんにとって、一番時間のかかった難所だったとのこと。なぜ難しかったか、わかりますか?

それは、写真に木の「くさび」が見えるように、この家は基本的にクギやボルトなどの金物はできるだけ使わず、デコとボコに刻みを入れた木材を組んだ伝統工法で作っていて、斜めの角度調整が必要な階段部分は直角に柱を組む部分に比べ、調整が難しいから。

わざわざ手間をかけて木組みにするのは、金物を使うとボルトのゆるみや木の伸縮でスキマが生じ歪みやすいけれど、金物に頼らず木と木が支え合う木組みの家はその心配がないので、地震にも強く安全だからです。

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こちらが、出来上がった階段。写真がピンボケで恐縮ですが、つくりを意識して見ると「階段の構造」があらためてわかり、この部分だけでも多くの手間と技が費やされていることに気づきます。

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階段の手すりは、仕事仲間の鉄細工の作家さんにお願いしたそう。シンプルでスタイリッシュ。木はどんな素材とも相性がいいですね。

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ここは屋根裏スペースを利用した子ども部屋。天窓からの光が、いい雰囲気。

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これは、お子さんのために作ったという高木さんお手製の勉強机。

引き出しと棚の上に板がのっているシンプルな構造なので、成長に合わせて高さや大きさを変えることも可能です。こんな愛情デスクなら、きっと勉強もはかどりますね(笑)。

ちなみに、娘さんに「この家のどこが好き?」と尋ねると、「全部!」とのこと。そうでしょうとも!(笑)


さて、この日はちょうど、これから家づくりが始まるお客様との打合せ日。
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設計図や前回の打ち合わせ事項をもとに、ストーブの機種、キッチン設備、階段の手すり、壁、窓、屋根…などについて一つ一つ確認が行われていき、家づくりには本当にたくさんの要素があるんだなぁ!と再発見させられました。

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建て主であるKさんご夫妻に、「なぜ、古民家ライフで建てることにしたのですか?」と尋ねると、こんな答えが返ってきました。

だんな様:

ぼくは飲食店を経営していて、高木さんは店のお客さんだったのですが、だんだん家作りの話などをするようになり、家に対する高木さんの想いを聞いて、“この人が言うような家に住んでみたいなぁ〜!”と思うようになったんですね。

ぼくも田舎育ちで自然が身近にある暮らしをしてきたから、自然を大事にする高木さんの家作りにはすんなり共感できたし、何より彼には、「この男だったら間違いない!」と思わせてくれる人間力を感じました。

今はどこの飲食店もそこそこ美味しいように、そこそこ快適な家ならどこに頼んでも建てられる気がしますが、肝心なのは人間力。それをやっている人に想いや魅力があり、それを信頼できるかどうかじゃないかと思うんですよね。


奥さま:

私は高木さんの家を見に来て一瞬で惚れて、あぁ、これが私たちが思っていたような家だ!と思ったんです。高木さんの人柄にも惚れて、主人ともども、“家は大きい買物だけれど、この人だったら信頼できる。一生付き合っていきたい!”と思って、高木さんにお願いしました。

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高木さんはお二人の言葉に照れていましたが、私は前日のインタビューで聴いた高木さんの言葉を思い出し、Kさんご夫妻の気持ちに深く共感しました。高木さんは自分が目指す家づくりについて、こんなふうに語ってくれたのです。

原さん、“あるがまま”って、どんな状態だと思いますか?

私 は古事記を勉強して、人間の“あるがままの状態”というのは、赤ちゃんのように無邪気で、明るく元気で純粋な状態のことだと知りました。外で何があって も、帰ってきたらその人の「あるがまま」の状態に戻り、英気と元気を養える場所。古民家再生も含め、私はそんな“魂の居場所”になるような家づくりがした いんです。

古民家はいつも、日本には素晴らしい知 恵や技術があったことを教えてくれます。今はいろんな社会問題やストレスで“あるがま ま”ではいられないことが多いけれど、日本の自然の恵みと日本の職人たちが培ってきた技術から生まれた家でくらし、そこで英気を養って、世界で活躍する人 が増えたら嬉しいです。

家作りに使う木材は、 150キロ圏内のものしか使わないと決めています。それぞれの土地にはそこで生きる微生物が いて、その微生物は呼吸や食べものを通して、人の中にも入っている。だから、地元の木や土でつくった家は、そこで暮らす人を安らがせ、“あるがまま”に戻 す力を持っているんじゃないかと思うんですよ。

自分の地元で育った木の家に住んで、豊かで懐かしい自然の英気をくらしの中で自然に補充する人が増えれば、社会も少しずつ、元気になっていく気がするんです。


19歳の時、工務店を営んでいたお父さんを亡くし、継ぐはずだった会社が倒産。心もくらしもドン底状態のある日、書店でふと古民家について綴られた一冊の本に出会い、雷に打たれたように“これだ!”と直感し、未知なる古民家再生への道のりが始まった高木さん。
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幼 い頃の遊び場は木材置き場、遊び道具は木っ端や大工道具、遊び相手は大工さん…という環境の中で、東北の木の香りを日々呼吸し、木屑にまみれて働く大人た ちの姿を見て育ったというこの人の心身には、東北の森の息吹や、その木々を活かして生きる職人魂が受け継がれているんだ。それが大きな英気となり、今、こ の人を輝かせているんだ。

高木さんの熱い心と目ヂカラに感電しつつ、「地元の木で日本の職人が建てた家に住む」ことの奥深い意味に気づかされた気がしました。

今も仕事やくらしを通じて、自然やモノや人の中に生きる“大和魂”たちと毎日対話を重ねている高木さんのものがたりは、

◆林業の一端を知れる昔ながらの木材加工場
◆家作りにとどまらない多彩な仕事ぶり
◆山形の若くて熱い職人コミュニティ…

などをお伝えする次回につづきます。どうぞお楽しみに♪

今昔 古民家ライフ (56)
木材加工場にて、右腕の大工・川合忍さんと。