Vol.10
海に住む立派な鳥
からだが重いので、はばたいて飛び立つことができません。
風に向かって走り、地面をけって飛び立ちます。
大空に浮かんだアホウドリは、そのまま風にのり、
グライダーのように滑空して大海原を渡っていきます。
ああ、きみはそんなに重いのに飛べるんだね!
すてきだね。
はばたけないアホウドリを、陸地でつかまえるのは簡単でした。
にんげんはそんなきみたちを「アホウなトリ」と呼んだのです。
大きなアホウドリからは羽毛がたくさんとれたので、にんげんたちは欲しいままに捕り尽くしました。
「アホウドリ絶滅」のニュースは世界中に伝わりました。
しかし、アホウドリは生き残っていたのです。
火山灰で荒れ果てた断崖絶壁に、アホウドリたちはひっそりと暮らしていました。
だれかが見守らなければ、ほんとうに絶滅してしまうでしょう。
アホウドリの危機を知った長谷川博さんは決心しました。
たまごが転がり落ちないように、みんなで、崖に丈夫なススキを植えました。
アホウドリたちは安心して巣をつくることができました。
そんなときに、地すべりがおき、巣も、たまごも、ひなも、埋まってしまいました。
ここはやっぱり危険です。
長谷川さんたちは、安全な場所に、アホウドリの模型をたくさん並べて、
アホウドリの鳴き声をながしてみることにしました。
さぁみんな、こっちにおいで。暮らしやすいよ。
みんなが息をつめて見守る中、一羽の若いアホウドリが飛んできました。
しばらく上空をぐるぐる回り、少しずつ下降し、ついにデコイのそばに降り立ちました。
もう一羽も飛んできて、やがて二羽は「けっこんのダンス」を踊ったのです。
なんと勇気のあるアダムとイブでしょう!
その後、別の島にもコロニーをつくりながら、
数十羽だったアホウドリは、三千羽以上に増えています。
にんげんに滅ぼされかけた鳥たちは、
にんげんの手によって生き返ろうとしています。
アホウドリさん
あなたは昔、オキノタユウという美しい名前で呼ばれていました。
風を読み、風の力で大海原を渡り、世界を巡るあなたにこそふさわしい。
沖の太夫
海に住む立派な鳥
オキノタユウ
もう一度、あなたをそう呼ばせてください。
アホウドリたちの新しいものがたりは、オキノタユウという名前から始まります。
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