2014.3.28 fri
強さの根っこ。
あなたは、30年間以上、職業以外に
毎日やりつづけていること、または、
やりつづける決意をしたこと、
が、ありますか?
私は先日、
故郷の海を守りたい!という気持ちから
地元の海水の温度を測り始め、
36年間、一日も休まずそれを続けている
斉藤武一(たけいち)さんに、
一年ぶりにお会いしました。
お若い頃は保育士を、
その後足を悪くされてからは
自営で学習塾を営みながら、
25歳の頃から61歳の現在まで、
1本1万円以上するという温度計
(これまでに何本も割っているそうです)
と、長い綱を結わえつけたバケツを持ち、
雨の日も雪の日も、猛吹雪の日でさえも、
近所の防波堤まで通っている斉藤さん。
防波堤に着くと、まず、
防波堤の端から身を乗り出して
バケツを海に投げ入れ、
綱を引き上げて水を汲み上げ、
そこにすぐ温度計を差し込んで
水温を計るのですが、
6〜7年前、現地を訪ね、
その様子を実際に見せていただいたとき、
それが命がけの作業であることを知りました。
自分でも体験してみたいと思い
綱を持ってバケツを海に投げ入れる作業を
させてもらったとき、その日の海は
特に荒れていなかったにもかかわらず、
バケツに入った水の重さと うねる波の力で、
綱を持った腕がグイグイ海に引っぱられ、
体ごと持って行かれそうになったからです。
ことさら鉛色に荒れるであろう冬の海で、
降り積もった雪に体半分埋もれつつ
防波堤の端まで進み、腹ばいになって
海にバケツを投げ入れる斉藤さんを、
写真で見ました。
誰に頼まれたわけでもないのに、
こんな命がけの作業を一日も休まず
斉藤さんがこの日課をやり続けてきたのは、
この調査データを
公的なものとして提示することで、
防波堤の向こうに見える泊原発から
日々排出されている大量の熱排水が
海水温度を上昇させていることを
証明できれば、原発を止める必要性を
強く訴えられるかもしれない、
という想いがあったからだと思います。
調査データを公的に発表するには
最低30年間データを
取り続けなくてはならないと知り、
25歳のとき、
それをやり続ける決意をしたとのこと。
私はここのところ毎年、
マスコミでは語られることのない
事実が盛りだくさんの、
斉藤さんの「原発紙芝居」を
拝見しているのですが、
今回の新作もまた、今まで以上に
斉藤さんが実際に見聞きした
生々しい実話がテンコ盛りで
事実がよくわかり、
肝の据わった穏やかな語り口には
肩の力が抜けたユーモアもいっぱいで、
笑いあり、驚きあり、納得あり、
こみあげるものあり…の
わかりやすく奥深〜い内容でした。
今回、特に心に残ったことは、原発を
なくすための活動をしていた同志たちが、
ことごとくお金になびいていった、という話。
多くの仲間たちが、お金の力によって
ウソのように原発推進側に翻ってゆく姿を
イヤと言うほど目の当たりにしてきた
という斉藤さんに、
「斉藤さんが他の人のようにならなかったのは、
なぜだと思いますか? 何が斉藤さんを
この活動につなぎとめたのですか?」
と尋ねると、
「うーん… 弱さ かなぁ…
ぼくは弱い人間だから…
昨日まで言っていたこと、やっていたことを、
お金や出世のためにアッという間に
ひるがえす仲間たちの姿を見て、
人間の弱さを思い知ったからね…
自分もいつ
彼らのようになるかわからないんだな、
人間にはそういうところがあるんだな、
ってね。
ぼくだって、
目の前に一億積まれていたら、
もしかしたら翌日からコロッと推進派に
なっていたかもしれない(笑)
人間なんて、わからないもの。
絶対こうだ、なんて言い切れない、
弱くてあいまいなものだからね。
反原発で誰よりも力強く
みんなを引っぱっていた人が、
あっという間に意見をひるがえし、
それまでと正反対の推進論を
精力的に訴えるようになったりね。
強い人っていうのは、意外と
そんなもんだったりするんだよね。
強いことは弱いことで、
弱いことは強いことなのかもしれない。
1000人いた仲間たちが
1000人とも推進派になっちゃったから、
1001人目のぼくは、せめて
このままでいようかな、なんてね(笑)。
『おまえはまだ反原発を捨てられないのか』
って、昔の仲間たちは呆れて言うんだよ。
彼らにしてみれば、ぼくは
“反原発を捨てられない時代遅れなヤツ”
なんだよね」
そう言って笑う斉藤さんを見て、私は
大きな衝撃と哀しみを乗り越えてきた人の
静かな海原のような大きさを感じ、
黙って何度もうなづくことしかできませんでした。
3年前の福島原発の大惨事を経験してもなお、
原発を肯定する人々もいる多様なこの世ですが、
自分の中にも、その多様性や
変化の可能性という「未知」があると
自覚している心の余白と謙虚さこそが、
“真の強さ”なのかもしれないなぁ…と
しみじみ感じた私です。
斉藤さんの紙芝居の一部が本になった
DVD付きの新作を会場で買い、
サインと握手をしてもらいました。
本を開くと、温かな手描きの紙芝居から、
遙かな海原のように大きなエネルギーが、
胸の中に流れ込んで来るような気がします。
2014年3月28日・金曜日
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