2014.5.18 sun

いい天気。

ここのところ札幌は、
ずっと雨模様。

とっても寒くて、
これから冬が始まるんだったっけ…?
と錯覚してしまうくらいなんです。
(私が寒がりだから?)

昨日は、
「そうだ、残ってる石油
 使っちゃったほうがいいし…」
と、ストーブまで焚いちゃった。

今日もどんより。
窓をあけると、ヒエヒエ。

心までどんよりしながら、
はぁ… とタメ息をついたとたん…

今日と同じような天気だった、
ある朝の記憶を思い出しました。

窓の外に広がる曇り空を見上げ
ウインクしながら、
「なんていい天気なんでしょう!
 ハイキングにもってこいね!」
と言った、女性のことを。


あれは確か1998年の、
6月の終わりのノルウェー。

場所は、首都オスロから半日かけて
電車とバスを乗り継いで行った、
山間の奥地、“セルヴィック”。

(あとでわかったのですが、
 これはバス停の名で
 「セルヴィックさんの家」という意味。
 それくらい住人がいないところだったのです)

私はそこに、
スペインのユースホステルで出会った
ノルウェー人の大学生ヒルダに招かれ、
教わった行き方を書いた紙を握りしめ、
バックパックを背に訪ねて行ったのでした。

オスロ近郊の町々とは打って変わった
緑深い山の中をバスに揺られつつ、
「まだかなぁ…」と思いながら
窓の外を見ていると、

緑の木立がパーッと開け、
ディープブルーの水をたたえた
湖の湖面がキラキラキラ…

思わず息を呑みながら、
「あなたの落とした斧はこれ?」と
女神が出てきそう…!と思っていると、

「はい、この上がセルヴィックだよ」
という運転手さんの声でバスがストップ。

彼の指さした先は、山の上。
「なぬ〜?!」と思いつつ、
妖怪ばあさんのように重いバックパックを
背負ってエッチラオッチラのぼってゆくと、
途中でヒルダが「ウエルカム!」と
両手を広げて満面の笑みで立っていました。

そこからさらにのぼって行った先に広がる
アルプスの少女ハイジの舞台のような景色の中で
私は夢のような数日間を過ごしたのですが、
(そこはヒルダの家ではなく、なんと
 ヒルダのボーイフレンドの実家でした!)

そこに到着した翌朝が、
ちょうど今日のような灰色の曇り空だったのです。

私が驚いて
そこで暮らす女性、トゥーレイラに

「え?これがいい天気なの?」と尋ねると、
彼女はこう答えました。

「ええ、もちろん!
 晴れてもいないし降ってもいない。
 山を歩くにはもってこいだわ!
 晴れていると、歩き出したら
 すぐ暑くなって大変よ。

 今日は1時間くらい山を歩いて、
 あなたを私たちの山小屋に
 連れて行ってあげようと思っているの。
 山小屋は天国のようなところなのよ!

 私たちが手づくりした小さな小屋だけど、
 薪ストーブもあって、お湯も沸かせるの。
 ビスケットを持って行って、あそこで
 山を見ながらコーヒーを飲んで
 おしゃべりしましょう!」。


結局、彼女の計画通りに事は進み、
彼女の言葉通りの天国のような場所で、
天国のような時間を過ごしたあの日…

今もあの山小屋は、
あのままあそこにあるのかなぁ…

そこでトゥーレイラは、
今日もコーヒーを飲んでいるかなぁ…

トゥーレイラは
ヒルダの当時の彼氏のお母さんで、
その数年後、ヒルダと彼氏は
別れてしまったのですが、


あの日々のすべては私の中で
そっくりそのまま真空パックされていて、
今も思い出せば、声の調子や風の香りまで
フレッシュに蘇ってくるのです。

山の中腹で、無口なだんなさんと
暮らしていたトゥーレイラ。

私の「世界の女性インタビュー」に答えながら、
持ち前のオープンな性格をお義母さんに
理解してもらえずずっと苦しかったと、
涙ぐみながら打ち明けてくれたトゥーレイラ。

歌うのが大好きで、話し声も歌のようだった
トゥーレイラ。

…なーんて思い出していたら、
だんだん窓の外が明るくなってきました。


トゥーレイラ・セルヴィック。

今度どこかの山に行ったら、
彼女の名前を呼んでみることにします。


2014年5月18日・日曜日