Vol.3
エコロジーライフ花②東京砂漠に“花”が咲くまで。
さてさて、前号につづいてやってきたのは、福島県南会津にある、自慢の木材加工場。東京から一変、辺りは澄んだ山の空気に満ちています。
加工場を含む建物全体が、まるごと無垢の国産木材!
加工場前の風景は、昔ばなしの中のようです。
家づくりに適した良材の手に入りやすさや、これまで授かったご縁を大切にしてきた結果、 エコ花では主に、宮城県や岐阜県などの森の木を使っているそうです。
木々と薪ストーブの心地よい香りに満ちた広〜い作業場で、 この日は、エコ花のお抱え大工さんのうち3人の方たちが、 お客さんのお宅になる木材を、黙々と「手刻み」の作業をしていました。
一軒の家づくりに使うすべての柱や骨組みの材を、 どんな長さに、どう組み合わさるように加工するかを考え、 書き記したものを見て、ときどき全体の進み具合を確かめながら、
いろんな道具を組み合わせて使って、 材の一本一本を手作業で「デコ」と「ボコ」に刻み、
慎重に、でも潔く、黙々、着々と加工してゆきます。
刻みに使う定規も、手づくり。
刻みの寸法を間違えたら、家の基礎が狂ってしまい、せっかくの材もかかった手間もムダになってしまうので、表に見えない仕事ながら、責任は重大です。
大工さん同士なら読み取れる暗号のようなサインが、墨で記されています。 クギなどの金物に頼らず、デコ(オス)とボコ(メス)を 組み合わせて建てられる、伝統工法の木組みの家は、 地震が来てもしなやかに振動を吸収。地震の国ならではの、そして、木材に恵まれた国ならではの、昔から磨かれてきた、賢く美しい職人技術です。
↑ こちらは、この加工場の近くに住む、地元出身の年季の入った大工さんの、橘さん。若い大工には学ぶことが満載の、大先輩です。
こちら上下の写真のお二人は神奈川出身の大工さん、「坂田ブラザーズ」。 さて、どちらがお兄さんでしょう?(笑)
実は、こちらが、今回の家づくりの “棟梁”。
“棟梁” とは、家づくり全体を指揮する責任者のことなのですが、今回は、この若い大工さんが先輩大工の胸を借りながら、その責任あるお役目を担っていました。
必ずしも先輩格の大工が棟梁、というわけではなく、ある程度の経験を経てくると、若い大工に敢えてリーダー役を担わせ、責任感や総合力を育てる、という意味もあるようです。職人の気概や技というのは、このようにして磨かれ、受け継がれてゆくものなのですね!
この南会津の工房と大工さんたちの物語については、 また今後、このコンテンツで詳しくお伝えしてゆきますので、どうぞお楽しみに♪
では、次はいよいよ、エコ花の社長・直井徹男さんに、この会社を立ち上げるまでの物語をお聴きしてみましょう!
◆「即席ラーメン」から「オーガニックなこだわり和食」へ。
今は「エコ花」の社長として、日本の木と自然素材と 職人の伝統技法による家づくりを徹底している徹男さんですが、 大学の建築家を卒業後に入社し 独立前まで勤めていた住宅建設会社の社員時代は、 今のような意識は全く持っていず、特に疑問も持たぬまま、「即席ラーメンのような家」をつくっていた、とのこと。
それはいったいどんな家だったのでしょう?
インスタントラーメンのように、早く安く手軽につくれるけれど時間とともにどんどん劣化も進んでしまう、 プラスチックや化学物質だらけの家のことです。
いま私たちが手がけている、職人がつくる国産無垢材の家は、使い込めば使い込むほど味わいが深まってゆきますが、まぁ、それとは正反対のような家ですね(笑)。
たいてい壁には安いビニールクロスが張られていて、 その下地は、うすく削った木を接着剤で貼り合わせたベニヤ板。
クッション性があるコルクタイルもキッチンなどの床材として多用していましたが、 体によからぬ影響をおよぼす有機溶剤たっぷりの接着剤で貼り合せていますから、そんな空間に住んで毎日呼吸する人々の体に、影響がないはずがないですよね。
何を隠そう、いま私が住んでいるマンションの壁も、ビニールクロス… 床は、フローリングに見立てたクッションフロアです…(汗)
いやはや、まだまだ安普請(やすぶしん)の一般建築物は、「即席ラーメンハウス」なんですね…
それにしても、今ではガンコに自然素材の家づくりを貫いている エコ花の社長さんに、そんな過去があったとは……!
今のような家づくりになっていったきっかけは、どんなことだったのでしょうか……?
エコ花は最初から今と同じ知識や技術を持っていたわけではなくて、 会社を始めてから出逢ったいろんな方々から たくさんのことを教えていただきながらだんだんと今のカタチになってきたのですが、 化学物質を自分ごととして最初に意識したきっかけは、妻の妊娠でした。
おなかに子どもができて以来、食べものはできるだけ化学物質のない自然食品を選んでいたのに、長女も長男もアレルギーを持って生まれてきたんです。
おかしいなぁ…と思っていたときに、海外情報として 「シックビルディング症候群」という言葉を知りました。 それは、会社へ行くと具合が悪くなり、会社から出ると回復する、という症状で、やがて日本でも「シックハウス症候群」として とりざたされるようになったんです。
直井さんご夫妻は、徹男さんが住宅建設会社に入社した当初に 会社の取り扱い物件として改装の設計・施工を手がけることになった東京23区内の公団アパートに、つい数年前まで、家族5人でくらしていたとのこと。
駅まですぐの便利さゆえ、家族5人で15坪という窮屈さであってもなかなか手放せず、そこを引き払って新居に引っ越すまでの二十数年間はずっと、実は直井さんご一家も、「即席ラーメンハウス」でくらしていたのです。
お子さん3人が小さい頃、当時のご自宅で撮った写真。 家が狭いので、この3段ベッドは、お子さんたちが大きくなっても使っていたそう。
当時、お子さんたちのアレルギーと、シックビル症候群情報を機に、化学物質を使わない家づくりに関心を持ち始めた徹男さんは、 さまざまな資料を調べ、知らなかった現実を知るにつれ、“安全で、日本の風土に根ざした性質と風合いを持ち、 森の活性化にもつながる国産材” を使った家づくりの必要性を感じ、ついに独立を決意します。
ところが……
首都圏内の、特にこの近辺の材木店には、国産木材が売っていなかったんです。 置いてあるのは、米国産の、米スギ、米ツガ、米マツ、米ヒノキ…など、商社経由で輸入した外国の木材ばかり。
そういう材木店で「国産材を使って家をつくりたい」と言うと、「なんで?」「高くなるよ」 「発注してみてもいいけど、 ふだん扱っていないから、どんなのが来るかわかんないよ」 と言われる。
そして、たとえ稀に国産材が手に入っても、 それをこちらの要望通りに加工できる職人さんが、 ちっとも見つからないんです。
長年大工をやっている人たちも、「昔やったことがあるけど、なんで今さら、そんなめんどくさいことを」 と言って、手間のかかる職人仕事はなかなかやりたがらないんですね。
独立したはいいけれど、国産材も手に入らず、出逢う大工も、インスタントな家づくりに慣らされた 職人仕事を敬遠する人ばかり。 昔の日本なら当たり前にあったはずの材料と技術があまりにも手に入らない現実に、愕然としました。
独立当初は、設計と積算だけして現場仕事は工務店に任せる“住宅メーカー的な立場” で仕事をしようと考えていた直井さんはすっかり当てが外れてしまい、 とにかく自分の足で各地に出向き、木材と人材を探すところから始めなくてはなりませんでした。
・理想の家づくりに適した、国産の木材や土、
・丈夫な木組みの家づくりの技術を持つ大工、
・昔ながらの土壁が塗れる左官職人、
・たてつけのいい窓や扉をつくれる建具職人…
方々を探し回り、これぞと思う建材を見つけては買い、やっと見つけた職人を雇い、無我夢中でやっているうちに、いつしかチームができあがり……
気づけば、直井さんの会社自体が、 自分が独立当初「こんな工務店に仕事を任せたい」と思っていたような工務店になっていたそうです。
わが社は、何にもないところから始まって、約20年。いろんな方々のおかげで、なんとかここまで育ってきました。 受注・生産・設計・施工…と、 結局すべてを自分たちでやることになったわけですが、だからこそ本物にこだわり続けることができるし、自信をもって伝えられることがあると思っています。
宮城県・栗駒高原の森を支えるNPO「日本バイオマスネットワーク」 の活動とも深くつながり、今や木材となる森を育てる活動にも 精力的に取り組んでいる「エコ花」のみなさん。
約20年前、ないないづくしの東京砂漠に芽吹いた直井さんの夢は、大都会ならではの厳しい環境があったからこそ、各地のゆたかな人脈とつながる根を、広く、深く、張りめぐらせ、 力強く花ひらいたのかもしれません。
殺伐とした雰囲気の大都会の一角に、静かに凛と咲いた、「エコロジーライフ花」。 国産の無垢材を使った食器や家具づくり講座なども開かれていますので、家づくりをお考えの方はもちろん、都会のくらしに自然の息吹をとりいれたい方は、ぜひ一度、足を運んでみてくださいね。
今後は、
・ エコ花の社員さんたちへのインタビュー
・ 福島県南会津にある木材の加工場の様子 などをお伝えします。
次の更新も、どうぞお楽しみに♪
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