Vol.7

ビオプラス西條デザイン②エコデザイナー・スピリット

森びと今昔ものがたり・ビオプラス西條デザイン編。①「デザインに“いのち”をプラス!」に引きつづき、社長である西條正幸さんの、今に至るまでの物語をお聴きしていきましょう。

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ビオプラス西條デザインの代表取締役社長、西條正幸さん。


◆ぼくは“建築家”ではなく、“エコなくらしのデザイナー”です。

建築のお仕事をされていながら、ご自分の肩書きは「エコデザイナー」とおっしゃる西條さん。その道のりには、どんな歴史があるのでしょう……?

ぼくはもともとは建築を志していたわけではなく、デザインが好きだったので「北海道でも仕事ができるかな」という気軽な気持ちでインテリアデザインの学校に通い、デザインの勉強をしていたんです。

卒業を迎えたとき、その学校の先生の紹介で入ることになったデザイン事務所が店舗の施工まで請け負っていて、入社後はインテリアデザインだけでなく、店舗設計、資材調達、現場監督から予算管理まで、店舗づくりにまつわるあらゆる仕事をやらされたんですね(笑)。

弱音を吐くヒマもないほど忙しい日々でしたが、そのおかげで若いうちからいろんな経験を積むことができ、店舗づくりのノウハウを一通り覚えることができたので、今ふりかえれば、若いうちに建築仕事の一通りの流れや要領をつかむことができラッキーだったな、と思っています。


当時はちょうど、バブル経済まっただ中。建築ラッシュにのって建てられる店舗は、1〜2年のサイクルでつくっては壊す安いつくりのものがほとんどで、使っ ている建材は当然、合板に木目のプリントを貼り付けた「木目調」など、化学物質いっぱいの“不自然素材”ばかりだったそうです。

ぼく自身は自然に囲まれた町で育ったので、個人的な感覚では不自然なものやニセモノはまったく好みではありませんでしたが、まだ不勉強だった若い当時のぼくは、そんな使い捨ての建物をプラモデルのようにつくる仕事も、それはそれでおもしろいと感じていました。

当時は、「家づくりなどの本格的建築は地味だし、クレーム対応やメンテナンスも多いだろうから面倒」と思っていました(笑)。まさか将来、自分が自然素材の家づくりを専門にするようになるなんて、思いもよらないことだったんですよ(笑)。

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20 代前半で店舗の設計・施行に関わる一通りの仕事を覚え、25歳で会社を辞め、独立。飛ぶ鳥を落とす勢いの西條さんは、なんでもこなす売れっ子フリーランスとして数社の設計や施行を物件単位で請け負うようになり、その後、店舗デザインと工事施工監理を手がける「西條インテリアデザイン室」を開業します。

独立したのは、ちょうど娘が生まれて1歳になったころでした。若くて、怖いものなしで、仕事のプライドと仕事量だけは人一倍でしたね(笑)。モグラのように ずっと地下に泊り込み状態で札幌地下街の店舗づくりをしたり、当時斬新なデザインで話題になった、ススキノのディスコを手がけたりもしていました。

仕事相手はぼくより 年上の人ばかりだったので、よく「早く歳をとって、ナメられないようになりたい!」と思ってましたね(笑)。

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バブル経済時代の建築ラッシュ当時、30歳前後の西條さん。


◆「転機」が生んだ、宝もの。

そんな西條さんに転機が訪れたのは、第一子の娘さんがアトピー性皮膚炎を発症し、治したい一心で奥様と治療法を探ったときのこと。娘さんを連れて行ったアレルギーの専門医から、食べものをはじめ、住まいや日用品などに含まれている化学物質も健康に悪影響を及ぼすことを知らされ、治療の一環としてそれら一つ一つを見直してゆくことになったのです。

また、ちょうどその頃、西條さんは一冊の本に遭遇。タイトルにカッコよさを感じて惹かれたというその本のタイトルは、『エコロジー建築』。1985年、“環境と人の健康に与える影響”をテーマに誕生したドイツの「エコテスト出版社」が発行し、駅のキヨスクで買えるほどポピュラーな雑誌としてドイツ国内で愛読されていた「エコテストマガジン」。これは、その記事をまとめた書籍の翻訳版でした。

エコロジー建築 エコロジー建築改訂版
今も販売され読み継がれている名著。右は新装版。

生活用品、住宅、建材など、くらしを支える様々なエコ製品を紹介し、外部委託の検査機関が独自に行ったテスト結果なども発表していたこの雑誌と書籍は、今や「環境先進国」と言われるドイツ人のエコ意識を高める一助にもなったメディア。

のちに西條さんのエコロジー建築の師となったこの本の翻訳者、故・高橋元さんとこの翻訳本は、西條さんと同じ「森びとの会」の東京メンバーである「エコロジーライフ花」の直井さんをはじめ、建築に関わる感度の高い人々に日本でも大きな影響を与え、現在の自然素材ブームのルーツとも言われています。

何もすぐに完璧なエコロジー住宅から始める必要はない。壁に囲まれた居室を健康的な空間にするといった、身近なことから始めることもできる。

何よりも大切なのは、建物を新築したり改造しようとする人が、どのような建築材料が世の中にあるのかを知ることだ。

トパーズブルーのラッカー塗料や、繊細な草柄模様の壁クロス、ふかふかしたカーペットや居心地の良いフローリングにも、毒性の化学物質がたくさん隠されている可能性がある。

それは壁から屋根にいたるまで、いたるところに隠れているといえる。(高橋元翻訳『エコロジー建築』)


これは、西條さんの著書『やさしい自然派住宅-エコスタイルで暮らす(北海道新聞社刊)』の巻末に抜き書きされている、『エコロジー建築』の一節。


西條さんはこのあとに、こんな言葉をつづっています。

この本に出合ってから、はや15年が経過します。……(中略)……今の僕の心境は、先のこと、難しいことは深く考えず、まずは種をまいてみる。失敗したら、その時に理由を考え、また挑戦すればいい。きっと問題は解決されるはずです。この本に書かれていることは、15年間少しずつ積み上げてきた僕の記録でもあります。


現代の住まいについての問題点、さまざまな切り口から綴られた“自然派住宅”の考え方、家を構成する一つ一つの自然素材の紹介と説明、家の各部を心地よい空間にするためのアドバイス、国内外の様々な実例などなど……

家づくりに関わる多種多様な要素がやさしい言葉で一つ一つ丁寧につづられたこの著作には、西條さんが『エコロジー建築』や高橋さんから受け取ったバトンを、西條さんなりの目線と情報を加え、人々に受け渡そうとする気持ちがあふれています。
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この本を出版したことも、生まれ育った町でとれたホタテ貝の殻から塗り壁材を開発したことも、西條さんが『エコロジー建築』という本によって大きな気づきを得たことや、「壁に囲まれた居室を健康的な空間にするといった、身近なことから始めることもできる」という、この本のメッセージが、無関係ではないのでしょう。

ぼくが生まれた噴火湾の伊達市や周辺ではホタテの養殖が盛んでしたが、貝殻は邪魔モノとして扱われゴミの山だったのを子供のころから見てきました。

大人になってホタテ貝殻が塗料の原料になっているのを知り、地元のホタテ貝殻でもできればいいな……と、自分でブレンドして塗料を作ったり、他社の商品にアドバイスしたりしていたんです。

ホタテの塗り壁材や塗料は最近ではいろんな会社が作っているようですが、ふるさとの問題解決にもつながるなら、と思い、業者さんと協力しながら、自分なりのこだわりブレンドで、オリジナルのホタテ貝殻塗り壁材『うみびと』をつくりました。

石灰や化学糊を含まない純粋なホタテ貝殻を基本に、紙の繊維と天然糊を少しだけ加えたシンプルなもので、成分は弱アルカリ性。手で触れても手荒れを起こさず、木についても木が焼けない。なんなら食べられるほど、安心安全な製品です(笑)。


壁は面積が広く、室内の空気にも影響を与えやすい部分。施主が自分で塗れば家づくりの経費も削減でき、手をかけたぶん愛着も湧いて一石二鳥。『うみびと』は「素人にも塗りやすい」と評判の、リフォームやセルフビルドにもうれしい自然素材です。


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建築中の自宅に、「うみびと」を自分たちで塗るお施主さん。


◆野菜に例えるなら、「減農薬ではなく、無農薬」の家。

西條さんが店舗づくりから家づくり中心の仕事の仕方に本格的にシフトしたのは、今から16年前。現在の事務所とご自宅を新築した時のことでした。

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当時は国産の自然素材はほとんど手に入れることができず、実はこの外壁のアンティークレンガもイギリス製なのですが、そんな状況ではあっても、一般住宅はもちろん、店舗づくりでもできるだけ自然素材を使うよう心がけ、試行錯誤を重ねつつ、住まう人や利用者の健康を脅かすことのない建物づくりを目指し、取り組んでいたそうです。

この事務所を立ち上げた当時は、健康に負荷を与える建材しか手に入りませんでした。国産品はほぼ全てそういう状況だったので、対策が進んでいた海外の“低公害建材”を探し、そういう素材を集めて使っていました。

今でこそ納得のいく自然素材をこれだけ揃えられるようになり、いろいろと問題のある合板は一切使用せず、信頼のおける筋から手に入れる道産や国産の無垢木材しか使用していませんが、以前はうちでも、安全性の高い接着剤を使用した合板を使っていたことがありました。

実はそれは、匂いのする接着剤が使えない食品梱包用の合板で建築用ではなかったので、価格が5倍くらいしていたのですが、当時は何とか自然素材を集めようと必死でしたから、そんな物も探し出してきて使ったりしていたんです(笑)。


なるほど……なんだかこのエピソードひとつで、当時の建築界で自然素材を手に入れるのがどんなに難しかったかが見て取れるようですね……。

例えば、一般建築に当たり前に使われている合板についてもう少し補足すると……シックハウス症候群などが騒がれ始めた数年後に法の改正があり、国が13種類の化学物質を規制し、業界が接着剤の成分を変更し、ホルマリン対策がなされた国産合板が誕生したんです。

以来、安心した建築業界が大手を振って合板を使うようになり今に至るのですが、接着剤は改善されても合板に使う木材には規制対象外の化学物質で防虫処理がされているので、合板たっぷりの現在の住宅は農薬漬けも同然。

しかも、「規制された成分でなければいい」という考えで代替え物質を使用しているため、TVOC(総化学物質)の量は逆に増えているんです。だから今も時折、公共施設などで、建材や塗料・接着剤などから発生する化学物質の問題が騒がれたりするんですね。


いやはや、合板ひとつにも、そんな事実が隠されていたとは……。日常にあふれている「あたりまえ」を疑うまっさらな目と、危険を察知できる感覚を、いつも忘れずにいたいものです。


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ぼくらが基本にしているは、「病気にならないための家を作ること」。

シックハウス症候群化学物質過敏症など、建築材の化学物質による問題がこれだけ増えていても、家の何が病気の源因になっているのかは、お医者さんでも分かりません。

化学物質過敏症と診断された方の家づくりでは、ぼくらとしては、その方と相談しながら考えられる要因を一つずつ排除していくしかなく、生活の場をつくる上では限界があるのも事実です。

だから、元気なうちから「病気にならない家」をつくることが大切なんですね。


今は、“自然素材の家づくり”を謳いながら、見えない部分はもちろん、合板を天井や壁や床にもデザインのためにバンバン使っている会社も多いので、注意が必要。

一見「自然でステキ!」と思うウッディな雰囲気の店舗や施設でも、実際は合板や化学物質だらけの材料を使っている場合も多く、そういう建物の中に長くいることも健康を害する一因になりかねません。

原因がわからぬまま体調を崩している人が増えている昨今、建材が発する見えない化学物質も、実は大きく影響しているのかもしれません。食べものだけでなく
建てものにも自然素材を選んでゆくことが、引いては地球環境全体の改善にもつながってゆくはずです。

建てものでも食べものでも、自然なものづくりをどこまで本気でやるか、やれるかで、健康へのリスクは間違いなく軽減します。

住宅を野菜に例えると、高度経済成長時代の一般住宅は農薬たっぷりの野菜で、シックハウスが取りざたされるようになった後に建てられた一般住宅は、減農薬野菜。

無農薬・有機栽培の野菜が無添加・無垢の自然素材の家で、それがぼくらの家づくりです。

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ビオプラス西條デザインが設計を担当した、石狩当別にある菜園付きエコアパート「かたくりの里・とうべつ」。道産木材と自然素材をふんだんに盛り込んだ、画期的なアパートです。

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こちらは、北方圏型規格住宅として1960年代に建てられた、シンプルな三角屋根のコンクリートブロック住宅を自然素材でリノベートした三角屋根プロジェクトのモデルハウス。菜園スペースのある戸建てが、土地代込みで2千万円!


西條さんのお話から、以前、無農薬・無化学肥料の米づくりをしている農家の友人が言っていた言葉を思い出しました。

減農薬と無農薬は、全然ちがうんだ。たとえ俺から買わなくても、減農薬じゃなく、無農薬の米を食べるんだよ。


家をつくるときには、私も心して、“無農薬”を選びたいと思います。



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インタビュー取材&写真撮影:はらみづほ