自然とつながる持続可能な暮らし
サスティナライフ森の家
サスティナライフ森の家は、宮城県で、山とつながる、無垢材と自然素材の家づくりをしている工務店です。めざしているのは「持続可能な暮らし」。自然との共生という考え方ににもとづき、山も再生し、山の木を使うことが人の健康で幸せな暮らしと山の再生につながるような家づくりを手がけています。
里山の森で遊んでいた子ども時代
宮城県の里山で育ちました。父は時計職人でしたが、野菜・果物・ハーブなどを無農薬無肥料の自然農法で作り、山菜やきのこを取りに森に連れていってくれました。学校の帰りに寄り道をして、木の実やカタクリの花を取って来たり、どこの森にでも勝手に入って遊ぶ。そんな子ども時代の暮らしが、今の自分のベースにあるのかなと思います。
今、うちの子ども達は、森に入って遊びますが、それは、親がこのような仕事をしているからこそのこと。昔の「あたりまえ」が、今では求めなければ得られないような時代になっていますよね。サスティナライフ森の家での家づくりや森づくり、アウトドア活動などを通して、自然の中で遊び、自然の恵みを受ける暮らしを取り戻すご家族が、増えていくことを願っています。私がそのように考え、工務店を開業するに至った経緯をお話ししましょう。
「木って、自然なものでなかったの?」
縁が合って、製材組合に就職。そこで初めて、自分が遊んでいた森にはそれぞれ持ち主が居て、森で育つ木は、売り買いされるものだと知りました。事務職でしたが、好奇心旺盛な性格だったので、製材工場や伐採現場、原木市場など、いろいろなところに興味をもって、出かけました。そして「自分たちはいい材木を出している!」という、自信と誇りをもって、働いていました。
ところが、転機が訪れます。地元の山で木がまかないきれず、外材を挽くことになり、港まで、受取りに行ったんです。シートにくるまれた材に近寄ると「シートに15分入ったら、死んじゃうからね!」と止められたんです。「死んじゃうって・・?」とびっくりしたのですが、それは、材を防虫剤で燻蒸しているから、ということだったんですよ。
それまでにも、製材工場から製品を出荷する時は、当然のように防カビ材に浸けていました。カビが出ると「もっと薬品を濃くして」と電話を受けることもありました。「死んじゃうから!」との一言で、何の疑問もなくやってきたことのおそろしさが一気に分かってしまったんです。防カビ剤の缶に「河川にそのまま流さないでください」と書いてあった、その意味も。
自分たちが売る材木で
病気を作りたくない!
その後、山で素材生産から製材までを生業とする主人と結婚しました。「山で大切に育てた木は、自然でいいものなのに、いのちを脅かす薬品に浸けないと、お客さんに届けられないって、おかしいよね?」そんな素朴な疑問を、語り合いました。けれど、木材は、防虫剤、防腐剤や防カビ剤を使わないと、製材市場には出せない。農協が定める農薬を使わなければ、野菜や米を販売できないのと同じです。
しかも、山から木を出す側では、それを「木として」使ってほしいと願っていたとしても、その木が、スライスされたり、かつらむきされたりして、化学糊で貼り合わせた「合板」や「集成材」といった工業製品の原料となってしまうことだってあります。そんな風に切り刻まれてしまえば、生きた木としてのいのちがなくなってしまうばかりか、貼り合わせに使われる接着剤が、健康被害をもたらしてしまうことにだって、なりかねません。
食べ物は「無農薬を」と気を遣う人でも、家づくりに使う材料が、薬品漬けだったり、化学的な接着剤で貼り合わせたものだったりすることを問題にする人はあまり居ません。それが化学処理した木でできていても、「木であって、木でない」集成材や合板でできていても「木の家」と信じてしまう人の方が、圧倒的に多いのです。
けれど、住環境って、じつは、空気を作ることなんです。 選べない、吸い分けられないその空気が、本当の木の香りではなく、木を化学的に処理したものの発する空気だとしたら、どうでしょうか? 人間の身体って、寝ている時に成長するのだそうです。ということは、室内の空気の質が、人の身体を作っているんです。自分たちが売る材木が、アトピーやぜんそくを生み出しているとしたら?と考えると、居ても立ってもいられない気持ちになりました。
山からおりて
家づくりを手がける工務店に
どうしたら、山の木のよさを、そのまま、住む人に届けられるのだろう? さんざん考えて辿り着いた結論は「家づくりまで手がけるしかない」ということでした。それで、山からおりて、持続可能な暮らしを志す「サスティナライフ森の家」という工務店を立ち上げました。
ただ家づくりに「地元の木を使う」だけでは足りないのです。大切に育てた木ですから、樹齢百年の木であれば、家になっても、百年保つ家づくりをしなくては。できあがりは「木の家」と見えても、化学物質で貼り合わされていたり、処理されていたり、プレカット工場で加工されていたりするのでは、それは「木のいのちを生かした家」とは言えないのでは、と考えます。
伝統工法による
「木と土」の空間を実現
木を生かすために、どうしたらいいのか。突き詰めていくと、木の性質を知り尽くし、無垢材を扱う技術をもった熟練大工が手刻みした材を組み上げる、伝統工法しかない、という結論にたどり着きました。なぜなら、伝統工法は、樹齢100年の木を、家となっても100年以上保つばかりか、年月とともに味わいを増し、親から子へと、住み継いでいく、昔ながらの知恵による建て方だからです。
そのような方向で決意して動き始めると、設計士、昔ながらの技術をもった大工さん、現場監督と、すばらしいメンバーが集まってきてくれました。きこり出身の主人は、木を見て「この木だったら、こう製材すれば、こういう材が取れる」という木取りができるので、木のよさを見せるための材を、大工に渡す、という連携もうまく運びました。
木のいのちを育むのは、土です。地元の漆喰で壁を塗る左官屋さんとも出会い、宮城県内の木と土による家づくりが、実現しています。ここの土だと赤い仕上げ、別の地域の土だと黄色っぽい仕上げなど、地元の自然素材でもさまざまな表現の幅があることも分かりました。
いのちのある木や土で作った家で、人が育つ。もちろん、木や土以外の断熱材や塗料も自然素材にこだわります。すると、できあがる家は自然と、五感にやさしい、自然な暮らしを育む空間となります。建物も、家族といっしょに育って行く。年々、よくなっていく。そんな家づくりになってきています。これでようやく、ほんとに、木のいのちを、住む人に届けることができました!
サスティナライフ森の家がめざすのは、
山と人との循環
山の木が、木を生かす家づくりに使われることで、山にお金が還元され、次の世代のために手をかけて木を育てる森づくりができる。木を生かす伝統的な家づくりがなされることで、地元の大工の技術が継承され、地域の小さな経済がまわる。サスティナライフ森の家がめざしているのは、そのような「循環」です。
そのために、持続可能な森づくりの試みにも関わります。それは、皆伐して一斉に植林するのではなく、建築材に使う針葉樹を間伐しながら、広葉樹も育てて、やがては天然更新していける、豊かな混淆林を目指す森づくりです。もちろん、家や家具に木を使いながら。
木のいのちを、余すところなく大切に使うために、製材した端材や、針葉樹と広葉樹とが天然更新することをめざした森づくりから得られる広葉樹でオリジナル家具を作る、暖房や給湯に薪やペレットを使うなど、バイオマスエネルギー資源をさまざまに利用することにも、取り組んでいます。人が森と親しみ、その森の恵みである木を、暮らしに使う。そのような持続可能な循環の輪を、たくさん描きたいのです。
「持続可能な暮らし」の輪を
広げていきたい
「持続可能な暮らし」というアイデアや行動を、地域に、世代を越えて広めるために「森のようちえん」活動に関わったり、他業種の仲間とともにアウトドアや自然な暮らしについて発信する広報誌「ふんわり」を発行したり、アウトドアクッキングやツリーハウスづくりといったイベントなども、開催しています。
体験は人の感性を作ります。小さい時に森で遊んだ。木を伐ったことがある。そのような原体験が、将来、その子が、化学物質や新建材にまみれた家を買って、知らぬ間に自然とかけ離れたところに行ってしまうのではなく、山と人との循環の中にあるような家づくりをし、暮らしを紡いでいけるこような「自然との共生感覚」を育てるのです。百年の森、百年の家づくりを選ぶような感性をもった「人育て」がとても大事だと思うのです。
一見すると、分野の違う活動をとりとめなくしているように見えるかもしれませんが、すべては、ひとつ「持続可能な暮らし」につながっています。この思いに共感される方と、ぜひ一緒に家づくりを考えていきたいと願っています。