まず、最初のスピーカーである「NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク」の副理事長であり、「NPO法人しんりん」の理事長でもある大場隆博さん。材木屋さんとして、森びとの会のメンバーとは20年ほど前からつながりが深く、特に宮城の会員会社「サスティナライフ森の家」とは、森林の維持管理活動や、木の活用について強く連携してします。
未来の林業へ
日本の森バイオマスネットワークは、森林資源を活用して、持続可能な地域社会の実現と新しい産業・雇用を作り出すことを目標に、北海道から九州まで15支部が活動しています。理事長は佐々木豊志といって、くりこま高原自然学校の運営をしており、私は本業が材木屋で、日本の森バイオマスネットワークでは副理事をしています。
日本の森の現状
今の日本には49億立米の森林資源があると言われています。戦後の拡大造林活動で全国に針葉樹を植えまくり、それを十分に利用してこなかったので、年間9400万立米のペースで増え続けています。その量は、「日本」という国ができてからおそらく最大なのではないかと思います。
現在の日本国内の年間木材消費量は7387万立米です。森林増加量より少ないので、理屈からいえば自給率100%で、さらに輸出もできるほどの量ですが、現実の国産材の利用率は28.69%で、輸入材の利用が7割以上です。
さらに、日本の森の内容を調べてみると、45〜50年生の木が多く、それより若い木が極端に少ないのです。つまり、今は木が豊富にありますが、その先、がくんと減っていきます。森も少子高齢化なんですね。
日本はフィンランド、スウェーデンに次いで、世界で3番目に森林が多い国です。なのに、他の国の森の木を伐り、日本の森も手入れをせずに荒らしているのです。
皆伐から択伐へ
国が考えている林業は、木を大きくするために育ちの悪い木を「間伐(かんばつ)」し、大きくなったら一帯を全部伐る「皆伐(かいばつ)」をして、そのあと禿山になった山に再度植林をして再生していくというもの。今の木材価格では補助金を貰わないと植林、育林ができません。補助金をもらい続けている限り産業としての林業は自立できないので、永続する森づくりにはなりません。
私たちが考える未来の林業は、その時々で材として利用できる木を、森全体のバランスを考えながら伐る「択伐(たくばつ)」です。間伐後、禿山にするのではなく、よい木を選んで伐り、天然更新を目指して継続的に森から木を出していきます。森が禿山にならず。実生が自然に大きくなって、森が天然更新していくことを目指しています。
ハイブリッド林業
(動物と機械と人のハイブリッドな林業)
天然更新する森づくりのためには作業道の整備は必須。その道幅はおよそ2.5m以内で、作業機械は5トン以下しか使わないようにし、森のダメージを抑えるようにします。
幹線としての作業道はつくりますが、伐採場所から作業道までの20〜50m程度は馬で運ぶ「馬搬(ばはん)」をします。馬が入れない急傾斜地は、軽架線を張って集材します。森の管理作業のなかで、もっとも大変な下草刈りは、牛との共同作業です。牛は朝からずっと草を食べ続けてくれるので、とても助かります。だた、彼らには好き嫌いがあって、食べない草もあって、虎刈り状態です。そこは人がきれいに仕上げます。
このような手間のかかる林業をするのは、大型機械を使いたくないからです。大型機械は確かに便利なのですが、それを導入するとコストを改修するためにどうしても大規模化しないとやっていけません。大規模化すると、専門業者まかせになったり、自分たちで設備投資をしたとしても、高性能林業機械は雇用を奪います。また高額な機械のために借金を返すことに追われて、搾取される林業になってしまいます。そのような林業は何も生み出さず、お金は大企業や都市に流れてしまい、地域が衰退していきます。そうならないために、大変だけれど、できるだけ自前でできるようにしているのです。
出口戦略が重要
このようにして出荷した材木が、薬剤漬けにならず、きちんと役立てられ、森にお金が戻る仕組みをつくるのが重要です。それには、木に直接かかわることだけでなく、意識改革と事業継続のために、さまざまな活動が必要です。そのような一連の活動を出口戦略と呼んでます。
セブン-イレブンの木の募金箱
私たちが手入れをしている「エコラの森」という森が宮城県大崎市の鳴子温泉にあります。一般財団法人セブン-イレブン記念財団と協定を結び、その森を「宮城セブンの森」と呼んでいます。そこから間伐した木で、建築材を取った後の丸太をつかって木の募金箱をつくり、全国のセブン-イレブンのレジ脇に置いています。製造は、震災後につくった家具工場と、大崎市の福祉作業所の2箇所でやってもらっています。
森の民間認証
お金のない林業家、面積の小さい森林でもFSCのような森林認証を取得できるように活動しています。取得費用を森林所有者負担にせず、皆伐をなくし、針葉樹広葉樹の混交林への移行を促す助けとなる方法をさぐっています。一つの方法として、企業の新しいCSR活動の一貫としての道も探っています。
伐採ツアー
建て主さんたちが対象で、伐採現場や製材工場、ペレット工場の見学と、伐採体験のツアーをしています。きこりさんたちにとっては休日出勤になるので大変なのですが、最大の営業の機会だと捉えて、採算度外視でやっています。
建て主さんたちにとって最高の材を出すために、施工する工務店の特徴や、家の図面などの情報を、きこりがあらかじめ知っておき、最適な木を選んでおきます。そのような努力を知ってもらうためにも、伐採ツアーは重要です。よい木を使ってもらい、愛着をもって住んでもらうことで、100年もつ住み継ぎの家になることを目指します。
季刊誌ふんわりの発行
グループや同じ考えを持った組織をつくるフリーペーパーで、経営者のトップダウンではなく、社員による制作です。単なる広報活動としてだけでなく、スタッフの意識を高めたり、連携を強める働きもあります。
地域と繋がる産業
木地職人、木工職人、温泉旅館、農家レストラン、畜産、農業、看板制作、福祉作業所、作家など、地域の異業種が手を取り合って、一つの事業をしています。地域力を高めるのに、とても役立ってます。
エネルギー事業
森の木を、建築材料としてだけでなく、多様な使いみちをさぐっています。木質ペレットや、薪づくりを事業にすることによって、木を無駄なくつかうだけでなく、石油や石炭のような、古くて遠い場所のエネルギーを使わず、地域のエネルギーを活用することで、地域循環を目指します。
教育の場としての森林・林業
私たちは、教育と産業はつながるべきだと考えています。東北大学の清和先生とのつながりをきっかけに、より強く、そう思うようになりました。子どもたちへの体験教育環境教育としての林業、社員教育としての林業、一般の観光体験林業を進めていきたいと考えています。
林業ウェアの開発
これは、アウトドア製品で有名なモンベルに働きかけを行っております。企画の方に私たちの意見を聞いていただいたり、グローブなどの試作品の使用などで協力しています。林業はかっこいいというイメージを一般の人に持ってもらいたいと思い、モンベルさんががんばってくれてます。スタイルの良さだけでなく、日々の重作業にも耐えるよう耐磨耗性を考えたウェアを開発中です。来年には発売されるでしょうか。
まとめ:未来の林業とは
たくさんお話ししたので、最後に私たちが考える「未来の林業」をまとめてみます。
・皆伐しない(禿げ山にしない)
・間伐から択伐へ 日本の林業を活性化する
・人間が手を出す天然更新
・植林、下草刈りをなくす
・小型林業機械での施行(自前でやって、搾取されない林業)
・百姓を目指す(百のなりわい 教育も生産も)
・異業種との連携
・トレーサビリティーができていること
思いのある経済活動が未来をつくる
経済合理性だけを突き詰めて行くと、いろんなものが機械に置き換えられ、あらゆるものが都市のごく一部に集中していき、地方が、個人が衰退して行くいっぽうです。そこに幸せな未来はありません。結局のところ、思いのある経済活動が未来をつくるのだと思います。