19歳で父の死
古民家再生をめざす
私は代々、高木傳五郎(でんごろう)を襲名する高木家の11代目当主として、また10代目の父から始まった工務店の2代目として福島に生まれました。小さい頃の遊び場は材木置き場、玄翁(かなづちのこと)やのこぎり、材木の切れ端が遊び道具、遊び相手はうちに出入りしている大工さん。家の中には木屑が常にどこかに落ちている。そんな環境で育ったので、将来は家業を継ぐものと幼心に思っていました。小学生低学年の頃の文集には「大きくなったら大工さんになる」と書いています。
しかし、すんなりと今に至っているわけではありません。高校を卒業し、建築家をめざして大学を受験するも、失敗して浪人。その年に父が1億5千万もの借金を残して亡くなりました。工務店は倒産、一家夜逃げという、自分の身に起こると思ってもみなかったことが現実となりました。
大学進学も将来の夢もあきらめて働きはじめたその頃、ふらふらと立ち寄った本屋で何気なく手に取った建築雑誌で、古民家再生の記事に出会ってしまったのです。その瞬間に頭をガツンと横から殴られるような錯覚を覚え「これをやっていこう」と心に決めたのです。「もう建築への道は閉ざされたか」と思う体験を経てこそ、今の自分があります。
古民家の解体、再生の
大工修業時代を通して
古民家再生の大工修業に山形に行く。そう決めた時は、親戚からも大反対を受けました。しかし修業時代から、文化財の古民家の修復、古民家の移築・再生等、代え難い経験を積ませていただきました。直感を信じてひたすらやってきてよかったと思います。
梁や柱のずっしりとした歴史のこもった重みを、古民家の感触を、図面上ではなく、大工として、体全体を使って、汗をかきながらこの体に叩き込みながら「古民家ってかっこいい」と感じる日々。そんな中で、それが、何百年も積み重ねてきた昔の人の知恵、気候風土に生きる知恵の結晶なのだということを会得していきました。そして今、その古民家から学んだ家づくりをしています。
平成の古民家と呼ばれる家づくりを
古民家はどんどん取り壊されています。壊されてしまえば、蓄積した技術や知恵はあとかたもなく消え去ってしまいます。その流れを、私一人でどうする事も出来ませんが、先人から伝えられたものを少しでも未来につなげていくために、力の及ぶ限りのことを精一杯したいと思っています。
実際の現場では古民家の移築や再生と並行して、新築でのご依頼も多くなってきました。自分の中では、昔の棟梁の思いを汲みながら解体・再生することも、私が今作る家を100年後の棟梁が「平成の古民家」として触るかもしれないことも、ひとつながりのことです。私が古民家を解体して会得したように、100年後の大工さんが私の建てた家の木組みを見たときに、それをまた伝えていける。新築の時にもそんな心持ちで手がけています。
古民家ライフの家づくりは
造りたいのは「大和ごころ」を呼び起こす住まい。「大和ごころ」とは、日本の風土の四季の移ろいを、自然を感じるやさしい繊細な心、手間を惜しまず、丁寧に生活する心です。そして心を穏やかに整え、今を最善な状態で居られること。季節に応じて、相手に細やかな配慮をする茶の湯にもそれはあらわれています。そういった心は、機能性第一で作られ、一年中快適で、便利すぎる家には育たないのではないでしょうか。
お客様への誠意と自分自身の覚悟の自己表現として、この山形の地に土地を買い、自分で家を造りました。クーラーはなし、冬は薪ストーブ1台で暮らし、それでも木のぬくもりを感じながら、夏の涼しさ暑さ、冬の寒さあたたかさはこれくらいで、十分に気持ちよく過ごせているということは、毎日住んでいるからこそ言える生活の実感としてお伝えすることができます。
木組みと無垢の木の空間、そして外の自然と断絶せずゆるやかにつながる、木の香りのする家は、本来の自分を取り戻すところ。暮らしていて、毎日がなんだか嬉しいのです。家づくりを通して、みなさんがよりよい暮らしを営めるお手伝いが出来れば幸いです。
食べものを作るように
家をつくる
家づくりを食べ物にたとえれば、プレハブ住宅のように大量生産され部材を金物で固定し、合板をバンバン打ちつけた家はファストフード。材を選び、一本一本手刻みをして組み上げる「古民家に学ぶ家づくり」は、食べる人のことを思い、安心できる材料を使い、手をかけて作る料理といっしょです。どちらがいい、悪いと言うのではありません。ファストフードの方が手軽で、安いかもしれないですね。けれど、心を入れて造るかどうかで、その出来上がりは全く違ってくることは確かです。
食べ物の話をする時には「身土不二」「地産地消」ということも、言われます。その土地で育ったものを食べるのが、身体にいい、ということです。気候風土に合った家づくりのための木にも同じ事が言えます。古民家ライフでは、150km圏内の東北の山の木を使うようにしています。そして、建主さんを必ず山へお連れします。材木はどんな育ち方をして、どこからやって来たのか? 一生のお付き合いになる家の材木ですから、知っていただきたいからです。
古民家情報マッチングサイト
「古民家ライフ」も運営
古民家に住みたい人が居る一方で、古民家を保ちきれず、潰していかざるを得ない人もいます。そんな中で、住みたい人に住んでもらうことによって、一軒でも古民家を残したい、そんな思いで、古民家を「ゆずりたい人」「住みたい人」のためのマッチングサイトを作りました。集まった情報は、私の方で前に住んでいた人やその家の歴史などを含めて物件を調査・確認し、住むべき人に住んでいただけるよう、屋根の吹き替えや補修工事などの維持管理や住みやすく改修するための相談にも乗らせていただいています。
その家を保つことが負担になってしまった親族の手で終わりを迎えるのは、もったいないような古民家の「いのち」があります。それを継いでいくのが、親族でなくてもよいのではないでしょうか? 社会的なインフラでもあります。一族以外でも、住み継いでいける人が居れば、その古民家は未来に残っていくのです。よかったら、いちど、ご覧ください。
価値観を共有できる人と
家づくりをしたい
私にとって仕事は、人生そのもの。そして、家づくりは、出会いです。一年に2棟~3棟というペースの小さな工務店ですから、今のところ私が一生に手がけられるのは、60棟くらいでしょうか。だからこそ、同じ価値観を共有できる方と、家づくりをしたいと思っています。
- 顔が見える関係である事
- 自然素材である事
- 国産材である事
- 手仕事である事
- 古民家の造りも大好きな方
- 手造りの家には手間ひまがかかる事を理解している事
- 体に負担のかからない家を造りたい事
- 木のにおいのする家
- 子供たちの笑顔があふれる家
- 職人さんが誇りに思う家をつくる事
上の項目にピンと来る方との出会えるのを、楽しみにしています。
答えは足元に
冒頭にもお伝えしましたが代々襲名してきた名前は傳五郎(でんごろう)です。
「傳」という字は「伝える」という字です。ご先祖様の名前に答えがありました。
「受け継ぎ伝える事」を理念としてこれからも皆様のお手伝いが出来るように精進してまいりたいと思います。